その名の通り表銀座登山道の人気観光地なみの賑わいに比べると裏銀座登山道は静かで落ち着いた山歩きが楽しめるルートです。そして、野口五郎岳の西側で裏銀座登山道から分岐して湯俣温泉へと下るのが竹村新道です。長い下りで膝が痛くなるなど、世間的な評判は今ひとつな感じですが、前半の景色は素晴らしく良く、湯俣温泉でのひと風呂が最高に贅沢な、ご機嫌なルートだと自分は思います。
晴天時の竹村新道の下りをご紹介します。
真砂岳分岐
竹村新道の起点となる真砂岳分岐は、野口五郎岳山頂(2,924m)を水晶岳方面に約1キロ、62mほど下った場所にあります。ハイマツの陰に隠れるように道標が立てられています。裏銀座登山道が気持ち良く真っすぐに続いているのですが、今回はここから湯俣へと向かいます。
上のパノラマを全画面に拡大して、裏銀座の雄大な景色をお楽しみください。西に東沢乗越を経て水晶岳へと向かう登山道。そこから北に赤牛岳、立山連峰、南に向かうとワリモ岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳、樅沢岳と続いて、真南の槍ヶ岳まで、錚々たる山の景色が楽しめます。
登山したのが2019年のお盆休みでしたが、竹村新道入口の砂礫地にはコマクサが可憐に咲き誇っていました。人が歩けば簡単に崩れてしまうような砂地の上で咲く姿は、本当に脆弱な感じで、足を置く場所を慎重に見極めながらの通行です。
尾根筋に出る
竹村新道は真砂岳の西側を巻いて、南側の尾根筋にでます。ここからは北東に野口五郎岳が見えます。また、南東側の視界も開けるので、餓鬼岳、燕岳、大天井岳、東鎌尾根などの表銀座の山並みを見渡すことができるようになります。
槍ヶ岳とその手前の赤岳と硫黄岳の崩壊地に向かって進む登山道は、眺望が抜群です。表銀座と裏銀座の真ん中を縦に仕切る稜線の上を行くわけですから、こんな贅沢な登山道はなかなかありません。天気に恵まれれば、この景色ですよ。もっと人気が出ても不思議なしです。
お盆の真ん中だというのに、竹村新道は静かなものです。野口五郎小屋で聞いた話では、水晶小屋では布団2枚に5人という超過密で、宿泊できずに野口五郎小屋まで戻ってきたとのこと。こんな混雑時でも竹村新道は歩く人もまばらでした。
天気は快晴! さあ、気分良く先へと進みましょう。
鷲羽岳を横目にザレた尾根を下る
尾根筋に出てからはずっと見晴らしの良い登山道が続きます。正面に槍ヶ岳、右に鷲羽岳、左手遠くに餓鬼岳、竹村新道を囲むように名だたる名峰が連なります。両側が崖になっている場所もありますが、極端に危険な感じの場所もありません。ただ、脆い地質の場所ですので、滑ったり躓いたりしないよう慎重に進みます。
絶景かな🎶 南真砂岳
南真砂岳の山頂は、登山道から少し外れた場所にあります。と言ってもほんの2、3分です。面倒がらずに足を伸ばしてみてください。上のパノラマ画像では人が座っている場所が山頂です。登山道はその向こう側を山頂の東側を巻く形で続いています。南真砂岳山頂は広くなだらかで360度の眺望が楽しめます。休憩の適地です。ここに来ると、北アルプス中央部の特異な地形が一望できます。山の位置関係もとても良く分かります。
表銀座の屏風に向かって
南真砂岳を過ぎると、登山道は東に30度程度、方向転換。湯俣岳に向かいます。目の前の高い位置に表銀座の山々が作る稜線が大きな壁となって迫ります。その壁の手前に綺麗な三角形の稜線が幾何学的に並んでいるのは、とても面白い風景です。何らかの理由があるのでしょうが、とても不思議な景色です。屏風の向こう側、つまり松本平からは見えない風景。この眺めは登山者だけの特権ですね。
この素敵な景色を楽しめるのも、屏風の手前にある濃緑色の木々に覆われた湯股岳の手前まで。そこから先は、長い樹林帯に突入です。
崩壊地を通過し高度を下げる
硫黄岳を横目に見る位置にまで南下してきた。足元も悪いので、慎重に下る。登山道がハイマツに囲まれるようになってきた。この先、もう少しで樹林帯に突入する。しばらくの間は、眺望なしの我慢の時間帯だ。
絶景!槍見の展望台
ぬかるみあり、倒木あり、笹原ありの長い長い下りの末に突如として現れるのが、こちらの展望台。道標には展望台としか記載されていないので、槍見が正式名なのかどうかも定かではない。だが、ここまで来れば、目的地の湯俣までは、あと一歩。ゆっくり休憩をとって、この風景を存分に楽しみたい。
切り立った崖の眼下にはコバルトブルーの湯俣川。湯の花で白く染まった河原には天然記念物の噴湯丘。奥に聳える槍ヶ岳と覆いかぶさるほど高く感じられる表銀座の屏風。長い樹林帯の苦行の末のご褒美は、この展望台だけでしか見られない絶景です。
さて、晴嵐荘は目と鼻の先ですが、ここから先にこれまで以上の危険地帯が連続します。足を滑らせると命を落とすような断崖も通過します。緊張感を持って進みましょう。
湯股温泉 晴嵐荘
湯俣川と水俣川は晴嵐荘の少し上流で合流して高瀬川となりますが、この高瀬川が相当な暴れ川で、毎年のように増水しては河原の地形を大きく変えてしまいます。
このパノラマ写真は、2016年10月に撮影したもので、土砂の堆積が著しく、100張可能なテン場が出現!と話題になった年のものです。晴嵐荘の前には広大な砂州ができ、下流に張られたテントが遠くに見えるほどです。
地図上では湯俣温泉ですが、晴嵐荘の看板や車には湯股温泉と表記されています。宿の方は湯股なのでしょう。
小屋番さんの趣味で、お酒が充実しているのが特長です。
湯股温泉 晴嵐荘 2019
2019年は、晴嵐荘は非常に限られた時期しか営業できなかったようです。僕らが訪れたお盆には、数日前に丸木橋ができて、渡渉せずに宿に行けるようになったという話だったんですが、そのまた数日後の豪雨で宿が孤立し、営業休止になってしまいました。
一帯の山に降った雨を一手に引き受ける川は、豪雨の影響をもろに受けます。その最前線にある晴嵐荘は、こうした過酷な自然環境の中にあります。
名無し避難小屋
晴嵐荘の情報。